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大阪家庭裁判所 昭和39年(家)5772号 審判 1965年11月25日

申立人 水原二郎(仮名)

被相続人 亡山本ふさ(仮名)

主文

被相続人亡山本ふさの相続財産である。

大阪市西成区○○○○通○丁目一〇番地

家屋番号 同町一三番

木造瓦葺二階建居宅一棟一階八・七四坪、二階四・六四坪

(登記名義人山本フサ)

を申立人水原二郎に与える。

理由

一、申立人は主文同旨の審判を求めた。

二、そこで、当裁判所昭和三八年(家)第三七〇七号相続財産管理人選任申立事件ならびに昭和三九年(家)第五四六三号相続人捜索公告申立事件各記録、登記簿謄本、当裁判所調査官堤孝男の調査報告書および申立人審問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。

(1)  被相続人(明治一七年八月三日生)は、大正三年一月伊豆治男と婚姻し長女律子を出産したが生後間もなく同女を死亡させ大正四年五月一七日上記治男と協議離婚し、大正七年一二月一九日山本次男と婚姻しその間に長男幸男をもうけたが、同人も昭和九年に死亡し、次いで夫次男とも昭和一一年四月一八日被相続人最後の住所地において死別した。それから間もなく被相続人は、一四歳年下の畳職人水原一男と上記場所で事実上の夫婦として同棲したが、一男との年齢差が大きかつたところから世間体を恥じたためか婚姻届をしないまま昭和三四年一月一三日死亡した。上記一男には昭和一九年五月五日縁組した養女ヨシコ(昭和三五年井口民男と婚姻)が存したが被相続人との間に子供が生れないまま、同人も昭和三七年九月一二日死亡するに至つた。

(2)  申立人は、水原忠男、同ミナの三男として昭和一四年一一月九日出生し、五~六歳頃父方伯父にあたる上記一男および被相続人に可愛がられて養子縁組の話まで出たが、申立人を手離すことを憂慮した母ミナの反対にあい実現をみずに昭和三〇年小学校を卒業した。申立人は元来病弱であつたので中学進学を断念し、上記卒業と同時に伯父一男方に畳職の見習として住込み被相続人とも同居するようになつた。上記一男と被相続人とはその間に子供がないところからゆくゆくは申立人を自分達の養子に迎へ畳商を継がせたいと考え、申立人もまたその心づもりで、双方親子同様の共同生活をしていたが正式に養子縁組をせずして被相続人、一男とも上記日時に死亡した。

(3)  主文掲記の家屋(以下本件家屋という)は、先夫山本次男が被相続人と婚姻中から賃借居住し、次男死亡後は上記一男が被相続人とともに居住するようになつたところ、昭和二八年頃家主が納税のため本件家屋を物納したのを機会に一男において建物買取代金を出資して本件家屋の実質上の所有権を取得したものであるが、登記簿上は被相続人名義に所有権移転登記手続をしたものである。そして被相続人死亡後は一男および申立人が本件家屋に居住し、一男死亡後はその三日後に発生した火災により二階部分を焼失したが、申立人がこれを補修して居住し今日に及んでいる。

(4)  被相続人には推定相続人は存在しない。

(5)  上記水原忠男は当裁判所へ相続財産管理人の選任申立をし、昭和三八年九月四日当裁判所において村山次郎をその管理人に選任した。同管理人は昭和三九年五月一五日相続債権申出の公告をし、さらに同管理人の申立により当裁判所は同年一一月三〇日相続権主張催告の公告をし、昭和四〇年六月二五日同催告期間が満了したが、相続人の申出はなかつた。

三、申立人が昭和三九年一二月一一日本件申立をしたことは記録上明らかであるので先つその申立の適否について考えることとする。民法第九五八条の三第二項は、相続財産分与請求は相続権主張催告の公告期間が満了したときを始期とし、それから三ヵ月までにしなければならない旨を規定するから、上記催告期間の満了前にした請求は同法にてらし形式上瑕疵ある申立といわざるをえないが、民法が新たに特別縁故者に対する相続財産分与の制度を設けた趣旨に鑑みれば、かかる申立といえども上記催告期間が満了しなお相続権を主張する者が現れない場合はその瑕疵が治癒され適法な申立に転化するものと解すべきであると思料する。そこで、本件についてこれをみるに、その請求は民法第九五八条の催告期間満了前の申立であるが、相続権を主張する者もなく期間が満了したのであるから、結局において適法な申立があつたものとして扱うべきである。

四、よつて進んで、前述認定の事情を勘案すれば、申立人は伯父水原一男と二〇余年間内縁の妻として連れ添つた被相続人と同人の死亡前満四年間事実上の養子として同居し、爾来本件家屋に居住してきたものであるから、民法第九五八条の三にいう被相続人の特別縁故者に該当するものということができる。

五、そうだとすれば、本件被相続人に関し他に上記法条による請求をする者もない本件においては、本件家屋を申立人に与えるのが相当である

よつて本件申立を認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 寺沢光子)

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